vol.72(2023年11月)
フレンディーだよりvol.72(2023年11月発行)
- 感染症内科の紹介予約枠が9月から新設されました!
- 前任の兼田先生から竹腰先生へバトンタッチ!
- 感染対策連携共通プラットフォーム(J-SIPHE)について
- 感染症から身体を守るためにヒトが持っている3 つのバリア(防御壁)について
- 編集後記
感染症内科の紹介予約枠が9月から新設されました!
感染症内科医
兼田 磨熙杜
2023 年4 月から9 月まで黒部市民病院に感染症内科医として勤務いたしました。9 月から感染症内科のコンサルテーション枠が開設されましたので、感染症について紹介させていただきます。皆さんは感染症といえばCOVID-19 の印象が強いかと思われますが、他にもHIV 等のウイルス、梅毒やリケッチアを含む細菌、カンジダやクリプトコックス等の真菌、アメーバ等の原虫を含む様々な微生物による感染症があり、その感染臓器についても副鼻腔、肺、尿路生殖系、骨髄と多義にわたります。また治療のみならず、感染症にはワクチンなど予防の手段もあります。黒部市民病院では難治性MRSA 感染症、耐性緑膿菌感染症、カンジダ血症等の感染症診療に携わらせていただきました。今後も感染症内科コンサルテーション枠の設置に伴い、地域の皆様との連携も深めることができればと考えます。ワクチン(成人)や治療を含めた感染症の診療に関する内容でしたら何でもご相談ください。
また院内での業務を紹介させていただきます。一般診療の他に多職種(看護師、薬剤師、臨床検査技師等)と連携を行い、感染制御チーム(ICT)、抗菌薬適正支援チーム(AST)の活動に取り組んでおります。ICT では感染管理認定看護師を中心として院内の感染対策(例えば耐性菌を含む病原体の伝播の予防)について検討を行なっております。またAST では抗菌化学療法認定薬剤師を中心として広域抗菌薬使用症例、血液培養陽性症例、抗MRSA 薬使用症例等に対して、原因菌や推定されている感染臓器から抗菌薬選択や用法用量に関して相談、提案を行なっております。広域抗菌薬の使用(特に長期化)は耐性菌出現のリスクとも言われております。一例ではありますが耐性菌の地域への伝播を防ぐ等、ICT/AST を通して新川医療圏の感染症診療に貢献できればと考えております。
また院内での業務を紹介させていただきます。一般診療の他に多職種(看護師、薬剤師、臨床検査技師等)と連携を行い、感染制御チーム(ICT)、抗菌薬適正支援チーム(AST)の活動に取り組んでおります。ICT では感染管理認定看護師を中心として院内の感染対策(例えば耐性菌を含む病原体の伝播の予防)について検討を行なっております。またAST では抗菌化学療法認定薬剤師を中心として広域抗菌薬使用症例、血液培養陽性症例、抗MRSA 薬使用症例等に対して、原因菌や推定されている感染臓器から抗菌薬選択や用法用量に関して相談、提案を行なっております。広域抗菌薬の使用(特に長期化)は耐性菌出現のリスクとも言われております。一例ではありますが耐性菌の地域への伝播を防ぐ等、ICT/AST を通して新川医療圏の感染症診療に貢献できればと考えております。
前任の兼田先生から竹腰先生へバトンタッチ!
感染症内科医
竹腰 雄祐
2023 年10 月から黒部市民病院に勤務することとなりました。2019 年以来のCOVID-19 流行の影響で「感染症=COVID-19」の印象が強いかもしれませんが、感染症は軽症から重症、局所から全身性感染症まで幅広く、あらゆる診療科に関わる極めて重要な疾病です。感染症診療の基盤は内科診療であり、地域の皆さんとは内科初診外来でお目にかかることがあると思います。一方で感染症は敗血症、HIV 感染症、性感染症、輸入感染症、結核等の高度な専門知識・判断が求められる疾患も多岐にわたり、適切な治療の選択が不可欠です。当院では9 月から感染症内科の紹介予約枠が新設されましたので、新川医療圏の感染症診療に貢献できる機会が持てることを嬉しく思います。
感染対策連携共通プラットフォーム(J-SIPHE)について
抗菌化学療法認定薬剤師
高野 雄介
感染症の診療や対策において疫学データは重要で、国内では様々なサーベイランスが行われ
ています。今回はその中でも薬剤耐性や抗菌薬使用量状況等について国内で実施されている感染対策連携共通プラットフォーム(Japan Surveillance for Infection Prevention andHealthcare Epidemiology:J-SIPHE)と診療所版J-SIPHE のOASCIS(Online monitoringsystem for antimicrobial stewardship at clinics:診療所における抗菌薬適正使用支援システム)について紹介します。
両システムともウェブ上で運用されるシステムで厚生労働省委託事業AMR 臨床リファレンスセンター(国立研究開発法人国立国際医療研究センター)が管理・運営を行っています。参加医療機関はJ-SIPHE が病院を、OASCIS が診療所を対象としたシステムです。共通して取り扱う
情報は抗菌薬使用量と微生物・耐性菌に関する情報で、J-SIPHE ではこれ以外の情報も扱っています。2023 年8 月25 日時点で、全国2405 施設がJ-SIPHE に参加しており、富山県では17施設が参加しています。OASCIS については現時点で参加施設に関する公開情報がありません。
J-SIPHE やOASCIS で自施設の耐性菌の検出状況や抗菌薬の使用状況を経時的に把握することや、自施設で検出された細菌の感受性を一覧化(アンチバイオグラム)して経験的治療に活用すること等が出来ます。また登録されている全国データとの比較やグループ機能を使用することで
連携する地域との比較も可能です。
J-SIPHE は感染対策向上加算(以下加算)2、3 及び外来感染対策向上加算(以下外来感染)に付随するサーベイランス強化加算の要件のひとつとなっています。富山県内では2023 年9 月1日時点で加算2 施設の100%、加算3 施設の32%、外来感染の4.4% がこのサーベイランス強化加算を算定しています。
従来のサーベイランスには多大な労力を要するものでしたが、これらのシステムの一部項目では既存データを2 次利用する点が特徴的です。例えば抗菌薬使用量は入院統合EF ファイル(J-SIPHE)やレセプトチェック用UKE ファイル(OASCIS)を匿名化ツールで個人情報を排しデータの登録を行います。微生物・耐性菌の情報も厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)と連携しデータを取得するため省力化が望めます。
当院でも2019 年度よりJ-SIPHE に参加しております。地域連携を目的としたJ-SIPHE の活用を進めていますが、まだ道半ばです。地域の感染症の診療や対策の底上げのため、まだ参加されていない医療機関におかれましてもJ-SIPHE もしくはOASCIS への参加をご検討いただければ幸いです。
ています。今回はその中でも薬剤耐性や抗菌薬使用量状況等について国内で実施されている感染対策連携共通プラットフォーム(Japan Surveillance for Infection Prevention andHealthcare Epidemiology:J-SIPHE)と診療所版J-SIPHE のOASCIS(Online monitoringsystem for antimicrobial stewardship at clinics:診療所における抗菌薬適正使用支援システム)について紹介します。
両システムともウェブ上で運用されるシステムで厚生労働省委託事業AMR 臨床リファレンスセンター(国立研究開発法人国立国際医療研究センター)が管理・運営を行っています。参加医療機関はJ-SIPHE が病院を、OASCIS が診療所を対象としたシステムです。共通して取り扱う
情報は抗菌薬使用量と微生物・耐性菌に関する情報で、J-SIPHE ではこれ以外の情報も扱っています。2023 年8 月25 日時点で、全国2405 施設がJ-SIPHE に参加しており、富山県では17施設が参加しています。OASCIS については現時点で参加施設に関する公開情報がありません。
J-SIPHE やOASCIS で自施設の耐性菌の検出状況や抗菌薬の使用状況を経時的に把握することや、自施設で検出された細菌の感受性を一覧化(アンチバイオグラム)して経験的治療に活用すること等が出来ます。また登録されている全国データとの比較やグループ機能を使用することで
連携する地域との比較も可能です。
J-SIPHE は感染対策向上加算(以下加算)2、3 及び外来感染対策向上加算(以下外来感染)に付随するサーベイランス強化加算の要件のひとつとなっています。富山県内では2023 年9 月1日時点で加算2 施設の100%、加算3 施設の32%、外来感染の4.4% がこのサーベイランス強化加算を算定しています。
従来のサーベイランスには多大な労力を要するものでしたが、これらのシステムの一部項目では既存データを2 次利用する点が特徴的です。例えば抗菌薬使用量は入院統合EF ファイル(J-SIPHE)やレセプトチェック用UKE ファイル(OASCIS)を匿名化ツールで個人情報を排しデータの登録を行います。微生物・耐性菌の情報も厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)と連携しデータを取得するため省力化が望めます。
当院でも2019 年度よりJ-SIPHE に参加しております。地域連携を目的としたJ-SIPHE の活用を進めていますが、まだ道半ばです。地域の感染症の診療や対策の底上げのため、まだ参加されていない医療機関におかれましてもJ-SIPHE もしくはOASCIS への参加をご検討いただければ幸いです。
感染症から身体を守るためにヒトが持っている3 つのバリア(防御壁)について
感染対策室
感染管理認定看護師 富田 大介
2019 年に新型コロナウイルス感染症が発生してから3 年が経過しました。新型コロナウイルス感染症の流行で市民の皆さんも、マスクの着用、手洗い、換気などの基本的感染対策を実践する機会が増えたと思います。これらの対策は細菌やウイルスから身体を守るために非常に大切です。しかし細菌やウイルスから身体を守るためにヒトが持っている3 つのバリアを皆さんはご存じでしょうか? 今回はこの3 つのバリア(防御壁)についてお話したいと思います。
ヒトが持っている3 つのバリアとは、1. 物理的なバリア、2. 自然免疫、3. 獲得免疫になります。1 つ目の物理的バリアとは皮膚による物理的な防御になります。細菌やウイルスは正常な皮膚を通過することができません。ただし皮膚に傷があると細菌やウイルスは容易に体内に侵入することができます。これから冬の時期になると皮膚の乾燥が進み、あかぎれ等の傷ができやすくなります。皮膚の清潔を保ち、ハンドクリームなどで保湿を行い傷のない正常な皮膚を維持していくことが大切になります。
2 つ目は白血球やマクロファージといった自然免疫による細菌やウイルスの排除になります。体内に細菌などが侵入した場合、血液中に存在する白血球やマクロファージが細菌を攻撃し体内から排除します。白血球などの細胞は誰しもが生まれながらに持っている免疫になります。白血球などが正常に働くためには栄養バランスのとれた食事、質の良い睡眠、適度な運動といった規則正しい生活をおくることが大事なります。またストレスを貯めないことも大事になります。
3 つ目は獲得免疫(抗体)による細菌やウイルスの排除になります。獲得免疫は字の通り、細菌やウイルスに感染することで体が獲得した免疫になります。ワクチン接種も獲得免疫の1 つになります。獲得免疫は自然免疫に比べ細菌やウイルスを排除する効果が強いと言われています。しかし1 つの獲得免疫は1 つに感染症にしか効果を示しません。つまり新型コロナウイルスのワクチン接種で造られた抗体は、新型コロナウイルスにしか効果がありません。ワクチン接種により多くの感染症から身を守ることできます。しかしワクチン接種には発熱などの副反応というデメリットもあります。ワクチンのメリットとデメリットをきちんと理解した上でワクチン接種を行うか決定してください。
ヒトが持っている3 つのバリアとは、1. 物理的なバリア、2. 自然免疫、3. 獲得免疫になります。1 つ目の物理的バリアとは皮膚による物理的な防御になります。細菌やウイルスは正常な皮膚を通過することができません。ただし皮膚に傷があると細菌やウイルスは容易に体内に侵入することができます。これから冬の時期になると皮膚の乾燥が進み、あかぎれ等の傷ができやすくなります。皮膚の清潔を保ち、ハンドクリームなどで保湿を行い傷のない正常な皮膚を維持していくことが大切になります。
2 つ目は白血球やマクロファージといった自然免疫による細菌やウイルスの排除になります。体内に細菌などが侵入した場合、血液中に存在する白血球やマクロファージが細菌を攻撃し体内から排除します。白血球などの細胞は誰しもが生まれながらに持っている免疫になります。白血球などが正常に働くためには栄養バランスのとれた食事、質の良い睡眠、適度な運動といった規則正しい生活をおくることが大事なります。またストレスを貯めないことも大事になります。
3 つ目は獲得免疫(抗体)による細菌やウイルスの排除になります。獲得免疫は字の通り、細菌やウイルスに感染することで体が獲得した免疫になります。ワクチン接種も獲得免疫の1 つになります。獲得免疫は自然免疫に比べ細菌やウイルスを排除する効果が強いと言われています。しかし1 つの獲得免疫は1 つに感染症にしか効果を示しません。つまり新型コロナウイルスのワクチン接種で造られた抗体は、新型コロナウイルスにしか効果がありません。ワクチン接種により多くの感染症から身を守ることできます。しかしワクチン接種には発熱などの副反応というデメリットもあります。ワクチンのメリットとデメリットをきちんと理解した上でワクチン接種を行うか決定してください。
編集後記
晩秋の候、各関係機関の皆様方におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申しあげます。今回は、冬に向けて感染特集と致しました。新型コロナウイルス感染症のみならず、インフルエンザウイルスやノロウイルスなど、感染症が流行する季節になってきました。引き続き各関係機関の方々との円滑な連携を行い、地域住民の方々の安全、安心な療養生活を支えていきたいと思っております。今後ともよろしくお願い致します。