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【研修医】メーコン黒部医療交流

桶屋 青葉医師


アメリカ体験記

2023年11月11日、私は石田君と羽田空港にて合流した。人生初の渡米であり、一体どんな国だろうとワクワクしている反面、一つだけ懸念事項があった。それは私が長時間のフライトの間じっとできないということ。しかし飛行機に乗らねばアメリカにはたどり着けない。覚悟を決めなければ。目の前のチェックインカウンターで石田君とチェックインを済ませた。...ラッゲージタグが出てこない。待てど暮らせど出てこない。思い切って係員に尋ねたところ、このカウンターは機内荷物お預かりがないお客様専用です、こちらに記載されていますよね、と。確かによく見るとはじめの画面にでかでかと表示されている。係員のお姉さんが結構本気で怒っていたのでいそいそとアメリカに向かう羽目になった。

はじめの2週間は感染症科にお世話になった。初日にDr. Katnerと挨拶をした後に「HIVは見たことあるかい?」と聞かれ、Never!と答えるとそのままエイズクリニックに向かった。日本が好きだという79歳の患者さんが「江戸に将軍がいたのは何年頃だったかな?」と唐突に振ってきたが、咄嗟に私は歴史なんて興味ない、知らんと全否定で返してしまいDr. Katnerが後ろで苦笑していた。クリニックに通う患者の数は多い。また私が渡米する直前にはHIVの母親から児が生まれたらしい。私の古い知識と異なり、コントロールさえしっかりしていれば生命予後はそこまで悪くなく、出産(経膣分娩)も可能だという。HIVは完治こそしないけど長生きも可能になったんだ、あとは正しい教育とstigmaさえなくなればもっと予後はいいはずなんだ...Dr. Katnerは何度も丁寧に教えてくださった。2日目以降は主にDr. Ponceにお世話になった。ペルー人の先生であり、愛息子のLucaの写真を時々出しながらいろんな疾患と抗菌薬について丁寧に教えてくれた。Thanksgiving dayにはホームパーティーを開いてくださり、食べきれない量のチーズマカロニが出てきたらどうしようと構えていたところ、出てきたのはなんと軍艦のたまご寿司。私がずっと日本食が食べたいと研修中に言っていたからだろうか。心遣いがとても嬉しかった。Dr. Ponceは地理的なデータと耐性菌の分布などを統合させる研究をしているそうだ。真面目で優しいDr. Ponceが最終日に呟いた。レインボーブリッジの下はESBL産生菌でいっぱいだよ。冗談か、聞き間違いだろうか。Oh...という絶妙なリアクションでその場は流れたが、間違っても東京湾に飛び込むのはやめようと誓った。
3週目は外傷外科、一般外科にお邪魔した。日本大好きレジデントのDr. Tomasに日本人はgun shotが見たいんだろ、大丈夫、1日2-3件は来るから、と言われ3日間待ったが1件も来なかった。堀君から聞いていたdrug userも来なかったが、1件だけprisonerの重症症例があった。左胸部から刺創疑い、JCSで3桁相当との触れ込みで、実際には外傷性心損傷と大量血気胸による低酸素脳症疑いであった。上級医が15秒で胸腔ドレーンを入れ、1000ml程度の血液が勢いよく流れ出てきた光景はいかにも外傷外科!という雰囲気であり、gun shotは見れなかったが満足した。しかし意識障害のため凶器はおろか他害か自害かも不明のままである。刑務所は怖いところだと知った。外科はレジデントが多く、お金の話がよく話題に上がる。アメリカのmedical schoolは高額とのことで、日本はどう?と聞かれたので国立大学の1年間の学費を提示したところ「Oh my gosh!!」と言われた。それで専攻医になったらいくら稼げるんだ?と聞かれ、私の来年からの一ヶ月の給料を提示したところ「Oh my gosh...」と言われた。アメリカではすべてのスケールが大きいということを実感した瞬間だった。

最終週は形成外科で研修させていただいた。初日にUberの運転手がナビに従わず迷走し10分程度遅刻する羽目になったのだが、Dr. Perofskyは笑顔で迎え入れてくれた。印象的だった症例はBMI 40超えの女性の乳房形成術である。両側の乳房が重すぎて生活に支障をきたすため縮小手術を実施するとのこと。日本でこんな症例ないわよ!と看護師さんたちが騒いでいて楽しかったが、たしかに組織を持ち上げる手にかかる力はかなりのものであった。翌日外来を見学させていただくと、このような症例は週2件程度であるらしい。アメリカではBMIが30を超える成人の割合は30%を超える州がほとんどであり、日本の5%程度と比較するとかなり多いのがわかる。余談だが、学生に「アメリカ人はpancreasが強いんだと思うわ」といったところhuh...?interesting? と微妙な顔をされた。

本当に4週間はあっという間だった。日本と同じ部分、異なる部分、いろんな側面を見ることができた。またどの料理もマッシュルーム入りを選べば外すことはないというマッシュルームの偉大さも学べた。最後に事あるごとに泣きついた西村さんを始め、小宮先生、お世話になったAtrium Health Navicentの先生方、職員の方々に深く感謝したい。本当にありがとうございました。

Dr.Ponceと長男Luca

医学生のAnnaと

形成外科医のDr.Perofskyと

なんとも言えないラーメン

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