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【研修医】メーコン黒部医療交流

堂前 謙介医師


米国研修体験談

忘れもしません。前日から腎臓内科での研修が開始し、やる気に満ち溢れていたものの寝坊した10月2日、突然辻先生からPHSに着信がありました。「急で大変申し訳ないんだけど、10月13日からアメリカに行ってくれないかな。」テンションに比して重い内容に、一瞬頭はついていきませんでした。その後浮かんだことは、今から準備して間に合うのか、パスポートとか必要な書類は用意できていたか、などでは無く、「今月ほとんど何も予定無かった気がする...」ということであり、案の定、スマホの予定帳には1件の飲み会以外、一つも予定は入っていませんでした。そんなわけでもともと11月に行く予定であったアメリカへの出発が急遽早まったために、特に準備を念入りにできたわけでもない僕のアメリカでの研修生活を少し紹介したいと思います。
 
まず初めに、僕は1人で観光に行くのが苦手なので週末にほかの州に出かけるといったことは一切していません。旅行体験記はほかの人のものを参考にしてください。ここではこの先アメリカへ行く可能性がある研修医の後輩やコメディカルの方に、僕が感じた「前もって準備しておけばよかった」という後悔と「準備しておかなくてもよかったな」という安心をお伝えしたいと思います。
アメリカに行く際にまず皆さんが気にすることは言葉だと思います。研修医ならば個人差はあるものの最低限、医師になるまでに大学受験を突破する受験英語を、他の方はもう少し個々人の学歴や経験に依存した英語力をお持ちかと思います。しかし、いずれにせよ、「会話のキャッチボールを英語で行う」という能力については誰もがあまり教育を受けてこなかったように思います。「言語なんだからやれば誰だってできる」と某有名予備校の講師は言っていましたが、大前提として、「何の話をしているか」を把握しないと相手の英語は全く聞き取れないということを今回の研修で知りました。クリスマスの話をしている途中、よくわからない単語がたくさん出てきた時、それが子供へのプレゼントの候補となるおもちゃの名前だということは何となく会話の流れから理解できました。反対に、突然投げかけられた「日本でもクリスマスを祝うの?」というごくごく簡単なYes or Noで答える質問でさえも、直前まで上級医に心不全の質問をしていた僕にとっては何を聞かれているのか咄嗟にはわからず、3度ほど聞き直しました。何か自分が気になることについて質問するというのはキーとなる単語を調べ、文章を頭の中で推敲することで比較的容易にできると思います。また、キーとなる単語が伝われば、多くの場合、「こんなことが聞きたいんだろう」と察して話をしてくれます。そうやって返ってきた答えは当然自分のした質問への答えなので、大前提となる「何の話をしているか」はわかります。ただし、答えの内容、特に医療に関する質問をしたときは自分が理解できない内容について話されることもあり、わずかに聞き取れた単語を使い、さらに聞き直し、また少ししか聞き取れなくて・・・といったことを繰り返すこともありました。アメリカ人と英語で会話をたくさんしたい!コミュニケーションを取りたい!と思って旅立つ人は「何について一番話したいか」をしっかりと考えましょう。たとえばそれが食文化の違いについてならば日本とアメリカの食べ物、食べ方などを先に学び、それが医療の、ごく限られた臓器の疾患についてであるならば、当然、疾患の勉強と、その臓器の疾患を語る際によく使われる英単語を勉強しておくことで、格段に内容を聞き取ることができます。まずは何についての会話をしているかを知る、この小さなステップが会話を徐々に成立させるために大切なことだと知りました。幸いにも、このことに研修が始まった最初の週に気づいたために、週末は観光をせず、ホテルに引きこもり医学と英語の勉強をするという傍から見ればつまらない、しかし僕にとっては充実した時間を過ごすことができました。
二つ目の大きな問題はアメリカでの生活についてです。治安が良くない、食事に飽きる、レンタカーでの移動が面倒だ、など、行く前から前年度の先輩にかなり脅かされていました。結論から言うと、特に大きな問題はなく、快適に過ごすことができますが個人差が大きいかと思います。僕は日本にいるときから欧米の食事を愛し、ジャンクフードに愛された人間でした。加えて、人一倍体格に恵まれ、かつ男であり、ひとりでいることのほうが好きな性格であったため、アメリカでの生活は何一つ不満のない天国でした。しかし、普段和食を食べる機会の方が多く、標準的な日本人体型である可能性が高い皆さんは苦労するかもしれません。おそらく当たり前なことだとは思いますが、現地で口に合う日本食を探すよりも、おいしいハンバーガーやステーキを出してくれるお店を探すことの方が簡単です。その国で洗練された食べ物はやはりおいしく、その国にとっての外国の食文化があまり発達していないのはごく自然の流れだと感じました。開き直って毎食ハンバーガーとステーキを愉しみ、水替わりにスプライトを飲んでいたので日本にいた時よりも心身ともに健康であったと思います。

僕らの年から、日々の移動手段はレンタカーからUberという、世界で目覚ましい発展を遂げている配車サービスのアプリを用いたものに変わりました。詳しい使い方や注意することは実際に行くことになってから知ればよいと思います。簡単にどういう変化であったかというと、従来は自分で毎日往復1時間近くかけて運転していたものが、タクシー通勤に代わり、かつ移動中に英会話を楽しむことができるようになった、という感じでしょうか。車の故障や交通事故といったおよそ自力で解決することが困難な局面に遭遇する可能性も非常に少なくなり、充実した海外生活を支えてくれた要因だろうと思います。
さて、最後になりましたが、医療についての話をしたいと思います。僕の研修は心血管系のICUで2週間、手技をメインに行う循環器内科医の外来と手技の見学で1週間、放射線科のインターベンション部門で2週間を過ごしました。幅広く、自分の興味のある分野を過不足なく見学させていただけたと非常に満足しています。しかしながら、皆さんもご存じのとおり、アメリカの医療は日本よりも進んでおり、さらに言えば、日本の医療は多くの国に後れを取っているという事実は、やはり現実として突き付けられました。これは僕が5週間研修を行い、導入されている機材や医師、コメディカル、医療機器メーカの担当者などから色々な話を聞いたうえで判断した、勝手な想像なのですが、おそらく、NavicentHealthはアメリカの病院の中でも最先端のデバイスや治療法が即座に入ってくるような病院ではないように思います。しかし、日本では限られた病院で今年から行えるようになった治療法であったり、厚生労働省に最近承認されたばかりのデバイスは当たり前のように使われており、そういったあまりなじみのない医療を、異なる言語で学ぶということは想像以上に大変なことでした。黒部市民病院は地域の中核病院としての役割を担う一方で、最新の治療法やデバイスについては病院の役割やマンパワー、施設要件の関係上、導入されていないものも数多く存在します。そのため、国内で導入されたという情報を知ってはいたものの、自分の研修期間で出会う可能性はゼロだと思っていたために勉強を怠っていた治療が、アメリカで普通に使われているために1から勉強しなくてはならなくなりました。日本で学ぶのとはわけが違い、資料は限られ、日本語で質問できる先生もいないため、苦労しましたが、アメリカでついた上級医に、「学生やレジデント相手に講義するときに使う資料はないか」と尋ねスライドを頂いたり、日本での研修中にお世話になった上級医にLINEで聞いてみたり、四苦八苦しながらも少しずつ理解するに至りました。ここまでしてようやく、アメリカの研修中に疑問に思ったことを質問し、その答えが少し理解できるようになったので、見学する科にもよるかとは思いますが、やはり見学する科の最新治療には一度目を通し、勉強しておくことをお勧めします。

以上が僕のアメリカ研修の感想になります。欲を言えばもう一度行きたい、と思えるくらい魅力にあふれている研修でした。辻先生を始め、長年、NavicentHealth、そしてメーコン市と良好な関係を築き、この研修に尽力してくださった方々に感謝を記し終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

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