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【研修医】メーコン黒部医療交流

小山 元気医師


人生初の海外渡航を終えて

2017年12月~翌年1月にかけて、アメリカのNavicent Healthとの交流プログラムのためジョージア州メーコンに滞在した。人生初の海外渡航であり、数多くの印象深い経験をさせていただいた。とりわけ印象的だったことについて、以下に簡単ではあるが記させていただく。

【医療の違い】

※家庭医療分野を中心に見学させていただいた。
●一つのクリニックにたくさんの医師がいて、大体一人午前午後で10~15人程度を診察する。
一人ひとりの診察はとても丁寧で、まず出会い頭に挨拶・自己紹介・握手。定期通院であったとしてもスクリーニングとしてか、一通り頭からつま先までの身体所見を取っていた。更に相手の言い分をよく聞き、患者との信頼関係が強く築かれるような方法と思われた。一方の日本では開業医が一人~数人で大量の患者を診ている。負担軽減やリスク管理の面からも、所謂”医療村”のように医師が集まった形態で運営するのも良いのかもしれない。ただその場合、交通事情や家庭環境がアメリカとは異なるため、医療アクセスの問題が出てくるかもしれない。と、ふと考えてしまったのであった。
●患者が加入している保険制度によって提供可能な医療が異なっている。
貧困層や障害者のためのmedicaid、65歳以上の高齢者に適応されるmedicare、保険企業から提供される各種保険によって処方可能な範囲も異なっており、まとめられたマニュアルが存在している。日本の皆保険制度より更に面倒そうだった。
●クリニックで行う手技は幅広いが、医療需要の多く簡便な手技が多かった。
例えば超音波診断装置は腹部スクリーニングには用いず、妊娠の有無やIUD(子宮内避妊器具)の評価のみに用いていた。IUD挿入もクリニックで行っていたが、消化管内視鏡やCT/MRIなどは置いておらず、Navicent Healthの病院に紹介して実施・評価されていた。そのためか、CT/MRIの画像を自分の目で見ないことが多くレポートを読むのみであった。うまく住み分けをしていると言えばそうなるが、CT/MRI大国の日本と同じ目線から見ると、やや心もとなく思えるかもしれない。
●見た目はほかの人と全く変わらない人でも、大麻の常用者だったりする。
大麻:マリファナはmarijuanaと表記されるため初めは何のことか分からなかったが、カルテを見ていてかなり頻繁に目にすることがあった。受診者の層にもよるのかもしれないが、普通に車で受診される人でさえも大麻の常用者と考えると、交通事故が多くなるのは当然のように思える(後述)。
●癌性疼痛以外でも外来で麻薬性鎮痛剤が処方される。
処方するためには州ごとに定められた資格が必要。厳格にその行き所を取り締まっているほか、日数制限を設けて市場に流通しても量が多くならないような工夫がなされている。日本では癌性疼痛以外で外来処方可能なものはトラムセット®のみと聞いているが、米国の対応を見ていると日本はやや硬すぎる印象も受けるほど。ちなみにNorco®、Vicodin®、Percocet®といったヒドロコドンやオキシコドンを含有した内服薬が使われていた(どれも日本では未承認)。なお当院外来での麻薬処方について現状をちらりと見ると、たまにトラマドール®と強オピオイドが同時に出ていて、呼吸抑制もあり得るし危険なのでは??と思う気持ちも...。
※緩和ケアチームも現状を見てお手伝いしたいとの事、一度取り合ってみるとよいのでは。
●報酬は家庭医で年間約30万ドル程度。
当院のある医師と比較しても約3倍は貰っている計算となる。
●日本で言う”医学部”は大学4年間を経てから。”医学部”も4年間かかる。
丁度クリニックに実習で来ていたマーサー大学の医学生と話したところ、医学部卒業後は在学中の試験成績によって選べる専門科が変わり、研修年数も3~6年と幅があるそうだ。聞いたところでは脳外科が6年間と最長。内科は4年、外科は5年、成績優秀者のみが選べる皮膚科は4年間。それほど成績が良くなくても選べる家庭医療は3年間とのこと。
●病院で病棟を持っていてもアフターファイブは概ね大事にされており、オンコールはなし。
むしろ夜間の着信があると時間外だとして怒る医師もいた。夜間当番は持ち回りでしっかりと提供されており、ON/OFFがしっかりと線引きされているようだった。家族との時間を大切にしようとする文化からきているのかもしれない。
●こちらでもあちらでも、”心配病”は変わらず存在する。
血圧が高いのが心配、ドキドキして心配、といって受診する人はアメリカでもたくさんいた。大体は落ち着いて測りなおせばいつも通り、脈圧も特に高すぎない、むしろ心配なことがあって血圧が高かったのでは...?ということが多い。ただそれでも血圧高値が持続していて、異常だと察して頭蓋内病変を見つけていた年配の医師もいた。

【文化の違い】

●「ありがとう」が頻繁に使われていた。
日本人はむしろすみませんと言う方が多いと思うが、彼らは本当に悪かったと思う時でなければすみませんとは言わない。よくすみませんと英語で話すと、君が謝る必要はないよと何度も言われたものであった。
●交通事情:左ハンドル、右側走行。
日本と真逆で、はじめ車の感覚をつかむのが難しかった。なお、all-way stopといって止まった順に進める交差点や、特別信号がない限り右折はいつでも行って良いなど、日本では見られないルールもあった。
●頻繁に事故が起こっており、そのせいか事故車でも普通に走っている。
広大な土地を持っていることもあってか道路は大体広く、その制限速度は高め。概ね45マイル毎時前後(=72キロ毎時)。また、ついさっき事故にあったのかと思うほどボロボロな車が高速道路を走るのは日常茶飯事。中にはビニールを窓ガラスの代わりにして走っている人も。決してオープンカーではない。
●高速道路は基本無料、中には有料でスムーズに走れる特別なレーンもある。
車社会のアメリカならでは。走行券を持つ人が優先的に走行できるレーンや、乗員二人以上で優先的に走行できるレーンなどもある。ちなみに最低走行速度が指定されており、40マイル毎時(=64キロ毎時)以上でないといけないらしい。
●チップは案外気持ちよく払える。
大体の外食店で接客のスタッフに対して会計時にチップを払う。日本の接客とは異なり、メニューや調理加減の意見やおすすめも聞けるため、払う分には悪い気もしなかった、むしろ感謝の気持ちという意味ではとてもいい文化だと思う。彼らはほとんどチップで食べているようなものなので、よく行く店なら気前よく払っておくといいかもしれない。
●どこでも大体キャッシュレス社会。
現金で買い物をする必要はほとんどなく、何処でもキャッシュレスで済ませられる。ガソリンスタンドはクレジットカードのフィッシングが横行しているようで、現金で済ませるのが良いかもしれない。
●共同墓地は怖さなど無く、暖かさであふれていた。
家族を大切に思うゆえか、墓石に刻まれた一言一句は暖かいものばかりであった。一度散歩がてらに訪れてみることをお勧めする。
●食事に塩気が少ない。
日本人からすると”どこか物足りない”味が多い。それでも高血圧は多いようだ(恐らく脂質異常症の影響もあるだろう)。
●米が美味くない。
まるでタイ米のよう。炊き方が悪いとかではなさそう、コメの種類自体が異なるのであろう。日本食レストランにも立ち寄ってみたが、そこのコメも美味くなかった。
●そりゃ太るわ、と思う食事ばかり。
アメリカでは肥満者が多いと言われているが、なるほどと頷けるような食事が中心的であった。
●クリスマスは家族で過ごす文化。
町にある商店の殆どが休業となっていた。独り身の私は飢え死にしそうだった。

【これは良かった】

●リスがたくさんいる。
休日にマーサー大学周辺を散策してきたが、木々を器用に行き来するリス達が見られた。時折人懐こいものも居る。大学周辺だけでなく普通に街中でも駆け出てくるのを見かけた。
●マウンテンロールはまだ美味しいと思う。
現地のSUSHIとしてはカリフォルニアロールが名高いが、海苔天で巻いてあるマウンテンロールはそれよりも美味しかった。
●陣 JINYAというラーメンバーは日本でも勝負できる味。
Dr. Dela Cruz一家のお気に入りのラーメンバー、豚骨ラーメンが売りの様子。日本のラーメン職人が広めたいと思って始めたのがきっかけであったとのこと。御陰でとても生き返ったのを覚えている。まだ多くはないがアメリカ各地に出店中。
●フライドグリーントマト:南アメリカのソウルフード。
Navicent Healthの病院近くにある老舗のレストランで出しているから行こうと熱く誘われて食べてみた。程よい食感としつこくない甘さが広がってなかなか美味しかった。グリーントマトというのは熟した状態が緑色になるトマトのようだ。
●UBERが浸透している。
日本ではまだ浸透していないが、個人タクシーのようなサービスでかなり快適に利用できる。飲み会の足に使ったが、運転手は一般の人がほとんどで、話しかければノッてくれて色々な情報が聞けることも。たまたま保険会社の人が運転していたため聞いてみたところ、仕事が早めに終わって時間のある時にUBERで稼げるし、そんなに悪くない報酬だと。また彼曰く、私の滞在先のホテルの隣にあるイタリアンレストラン(“ナタリア”という)がメーコンでは一番くらいに美味しいお店らしい。

【総合所感】

●英語で話すことに抵抗を感じるより、まずやってみた方が楽しさが分かる
渡米前までは、外国の人と話す機会がまだ周りより多くあったにも拘らず、聞き取りはできてもうまく話すことができなかった。ただ、話してみないと伝わるか伝わらないかも分からないということ、また上達するためにもどんどんと使っていかなければ身につかないということも痛感できた。言語学習においてはまず自分が分かる範囲から、少しずつでいいので知識を広げていくというアプローチでうまくいくのではないかと思う。
●視点の拡がりを感じた
日本語は日本人と日本が好きな少数の外国人たちにしか使われない。一方で英語はグローバルに用いられており、英語が使われている国に行けばそれぞれの様相も分かるため、自分の視点が広がるように感じるのではないか。実際アメリカに行くだけでも、日本を第3者視点で眺めてみることができて、そこでやっと気が付くところもたくさん出てきた。
●日本の良さを改めて感じた
アメリカと比べて、日本食はとても手の込んだものが多い。彼らは大体同じ食材を大雑把に調理したメニューをよく食べており、日本ほどの手のかけ方はあまり見られない(ちょっとお高い店とかは流石に違ったが)。だしの文化も相まって、日本食の丁寧さ・工夫の拵え方は、ずっと守っていってほしい大事なもののように感じた。

Dr. Burtner夫妻とそのご友人と

Dr. Davis-Smithと

Dr. Dela Cruz夫妻とRamen Bar 陣-JINYAにて

Family Medicine Clinic前にて

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