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【研修医】メーコン黒部医療交流

吉田幸司医師


平成21年11月28日-平成21年12月18日

2009年11月28日~12月18日までの3週間、アメリカ南東部のジョージア州メーコン市にある、中央ジョージア医療センター(MCCG)とその付属の神経内科関連施設で研修をさせて頂きました。

到着まで

出発早々に「特急はくたか」が予定より1時間遅れるというトラブルに見舞われ、乗り継ぎも次々に遅い電車になり「飛行機に乗れないんじゃないか」という不安を感じながらの出発となりました。何とか予定の飛行機には間に合い、一息ついていると、今度は飛行機の中で中年のペルー人男性が大量吐血し血圧も低下する、という緊急事態に見舞われてしまいました。結局ペルー人男性は緊急内視鏡が必要と判断され、飛行機はアラスカに緊急着陸することになりました。大したことはしなかった私ですが、落ち着かない道中となってしまいました。

ただ到着してからは、研修医の三宅先生が迎えに来てくれていたこと、メーコンの街が自然にあふれていて綺麗な町であったことなどが、旅の疲れを紛らせてくれました。

救急外来

不安と期待を胸に訪れた救急外来でしたが、まずはその広さに驚きました。48床もあり、迷子になりそうなくらいの広さです。それぞれの部屋も大きく、部屋の大小はありますが平均6畳ほどのスペースに患者さんが一人ずつ入っていきます。患者さんは部屋に入るまでにトリアージされており、小児・精神科・胸痛といった症状別や、軽症・Level-Ⅰ・Level-Ⅱといった具合に重傷度別に部屋分けされていました。そこでは、医師・看護士の他にPA(Physician's Assistant)やNP(Nurse Practitioner)といった日本には無い職種の人達も働いており、家庭医のレジデントと共に日本の研修医のような仕事をしています。さらにはカウンセラー、血ガス専門?の技師、挿管・人工呼吸器の技師などなど、様々な職種の人で溢れています。医師は日中は3人体制、看護士さんは常に10人以上はいたと思います。物と人の量は日本に比べて圧倒的です。

私は5日ある救急研修期間の内、4日間をインド系アメリカ人のDr.Panchにつかせて貰いました。Panch先生はつたない英語の私に優しく色々教えてくれ、感謝しています。そこでの医師の仕事は、問診・診察までは日本と大して変わらないと感じましたが、カルテは音声入力しており、この点はとても羨ましく思いました。コンサルトについては、医師は患者さんに必ず家庭医の名前を聞き、直ぐに家庭医に電話します。また専門医へのコンサルトも割と気軽にしているようでした。逆に、他の医師やコメディカルからもコンサルトされたり、その他様々な電話がかかって来るので、医師は本当に電話ばっかりしている印象を受けました。専門化が進んだアメリカ医療での情報交換に電話が重要な役割を果たしているのかな、と感じました。時にはなかなか電話が通じないこともあり、受け持ち患者さんも多かったりすると、診療スピードはかなり下がり、日本ではありえないような時間を救急外来で寝かされている、といった事も結構あるようでした。

神経内科・外来

神経内科ではまず女性医師のDr.Boltjaにつかせてもらい、外来をみせて貰いました。MCCGの神経内科には外来専門医(Office Physician)しかおらず、7人いますが全員外来中心の生活です。以前は病棟医(Hospitalist)もいたようですが、今はいません。日本の様に、基本的に外来と病棟の両方とも診るというスタンスでは無いようです。(確認はしていませんが、これはおそらく全ての科に共通しているのでは?)神経内科には病棟医がいませんから、神経内科的疾患で入院が必要な患者は、内科などの病棟医の先生に普段はみてもらっています。コンサルト(予約制)を受けた日だけ、その日の担当医(On-Call当番医)が回診する、といったシステムになっています。これだけ聞くと、病棟医の方が大変なのかと思って質問すると、「どちらが忙しいかは一長一短で、外来は忙しいけど決まった時間に終わるから一概に言えない」といっていました。病棟医もそんなに忙しくないのでしょうか?

さて外来の場所はというと、なんとMCCGの病院から車で5分ほどの位置にあり、レンガ造りで味のある建物でした。そこでは診察・処方・簡単な手技のみ(腰椎穿刺など)が行なわれています。1日に診察する患者さんの数は約10人で、午前新患・午後再診といった流れで全員予約制でした。新患の予約枠は45分間隔で作られており、日本よりかなり余裕をもった時間割で羨ましく思いました。何故そんなに時間がかかるかと言うと、やはり電話じゃないかと思いました。かかりつけ医に電話したり、また色々なところから電話がかかってきます。アメリカの医師は本当によく電話をしています。それと、カルテ(音声入力)です。アメリカの医師は紹介状を書きません。電子カルテ上で医師記録から紹介状を作ってくれるそうです。その為か、すべてのカルテは全員日本のショートサマリーくらいの量を記載しています。

診察の内容はというと、それほど大きな違いは無いのですが、一番関心したのは全員に眼底検査をしており、眼底鏡の使い方にとても慣れている点でした。

治療内容も大きな違いは感じませんでしたが、抗てんかん薬や頭痛などに関して新しい治療薬がいち早く使える点は羨ましく思いました。

神経内科・病棟

次にチェコスロバキア系医師のDr.Spiegelにつかせてもらい、神経内科On-Callをみせて貰いました。2日間だけの研修なのではっきりしたことは解らなかったのですが、病棟の回診は昼頃から始まり、予約表を見ながら次々と大体5~10人ほどの患者さんを診て回っていました。MCCGは迷路の様に複雑で、ICUも疾患系統や重症度?に応じて複数あり、僅かの滞在では把握できません。回診する患者さんは、いたる場所に散らばっており、病院内を歩き回らないといけません。患者さん私が見た限りでは日本とあまり変わらず、脳卒中がメインで少し変性疾患の患者さんも混じっているという感じです。ただ、多発性硬化症の頻度は日本に比べかなり高い様で、パーキンソン病とどちらが多いのか聞くと、迷っている程でした。

神経内科・検査センター

神経内科のドクターは、On-call以外に週に1回程度、一日中検査センターで筋電図の検査をする、という当番があるようでした。検査センターはMCCGから徒歩で行ける距離にあり、筋電図の他、抹消神経伝道速度、MRIの設備があります。MRIと抹消神経伝道速度の検査はコメディカルが行なっているようでした(勿論結果は見ます)。一日に筋電図の予約が入っている患者さんの数はやはり10人程度で、時間的にはかなり余裕がありますが、検査の間の時間は、やはり殆どがカルテの音声入力と電話です。MCCGの神経内科医は、脊髄疾患を疑わせる頚部痛や腰痛の患者さんも守備範囲の様で、神経内科外来の患者さんの中でかなりの割合を占めています。日本との守備範囲の違いを感じました。日本では神経内科医が少ないので、脊髄まで診る余裕はないのかもしれません。そして、日本よりすぐに筋電図をとられていました(神経根症状を疑われた患者さん、ほぼ全員かもしれません)。

最後に、雑感など

メーコンの人々はとても親切で陽気な方が多く、日本よりももしかしたら親切な人が多いのでは、と思うほどでした。アメリカ南部の街だからでしょうか。今回つかせてもらった先生方や以前日本に来られた先生方にもとても良くして頂き、そんな方々のお陰で、不安いっぱいに出かけた実習も、なんとか無事終えることが出来ました。アメリカの医療を肌で感じて、日本との違いを実感できたことは、日本の医療をより客観的に見るいい機会になったと思います。アメリカの医療は人と物について、日本とは比べものにならないくらい充実していました。しかし、日本の医療レベルはそれに引けを取らない様に感じました。これは、日本の医者やコメディカルの方々の頑張りに支えられている部分が大きいのだろうと思います。アメリカの医療はシステムとして患者さんを診ることによって、医療従事者一人一人の負担を管理し、多くの患者さんにより均一な医療を提供できているのかもしれません。その一方で医療費・保険料の高騰を招いており、患者さん側の要因で十分な医療を受けられないといったような欠点も感じました。逆に、日本では医師一人一人の役割がまだまだ大きく、医療の質が医師個人の力量によって変化を受けることも多いように感じます。また、日本の医療従事者はかなり重労働を強いられています。しかし、日本では貧しい人にも同じように医療を提供できており、外来が全部予約制といったこともないアクセスの良い外来システムであること、など誇れる部分も多いと感じました。

今回の研修では、期待していた以上に感じることの多い旅でした。今回の研修をさせて頂いた、中央ジョージア医療センター、黒部市民病院の皆様をはじめとしてお世話になった方々には大変感謝をしております。今後は今回の経験を生かして、医師として頑張っていけたらと思っております。ありがとうございました。

神経内科の外来専門病院

グランドキャニオンにて

Dr.Burtner & Dr.Ashご夫妻と

神経内科指導医のDr.Boltjaと

神経内科指導医Dr.Spiegelと

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