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岸 頌子医師

アメリカ研修を終えて

 私は感染症科で3週間、志望科である耳鼻科で1週間見学をさせていただきました。この4週間のアメリカ研修を通して非常に多くのことを学ぶことができましたので、簡単ながらここに記録したいと思います。

 はじめに感染症科についてですが、まずは入院管理の体制の違いに驚きました。感染症科には、実に様々な分野からコンサルトがきます。糖尿病患者の足感染や、オペ後感染、新規HIV患者のニューモシスチス肺炎疑いの患者、意識障害のある患者の原因不明の感染徴候、など多岐に渡ります。アメリカには現在ホスピタリストという職種があり、彼らが入院患者の総合的な管理を行うということでした。外来をしているプライマリケア医に入院が必要であると判断された患者は、入院中はそのプライマリケア医ではなく、ホスピタリストに総合管理されるとのことでした。そしてホスピタリストが必要に応じて各専門医にコンサルトするということです。これによって各専門医は専門分野の治療に専念でき、医療の効率、ひいては医療の質を向上させることができるようです。したがって、退院後はまた必要に応じて外来医が診るそうです。入院中に関わった専門医も、退院後にトラブルがなければ特に外来予約を設けることはないとのことでした。
 この制度は、以前はアメリカでも現在の日本と同様に、勤務医は外来も病棟も手術も行うといったように多忙を極めていたことが問題視されたこともあって、10年ほど前から始まったとのことです。同様の状況にある日本でも、近い将来このような体制が導入されるかもしれないと感じました。調べてみると実際にそういった制度をすすめる動きもあるようです。

 また、感染症科ではもちろん抗生剤投与が必要となることが大半です。使う抗生剤の種類や期間など、症例を通して丁寧に教えていただきました。また、抗生剤の経静脈投与が長期間必要となる場合、症状や血液検査結果が落ち着いた時点でPICカテーテルを挿入して退院となり、残りの期間は自宅で点滴を続けるとのことでした。もちろん退院前に本人や家族に、点滴方法の指導もされます。そのため、入院期間はより短くなり、患者の負担も病院のベッド管理も改善されるのです。そしてこのPICCは、医師ではなく訓練された看護師が挿入するということにも驚かされました。さらに驚いたのは、このようにPICCを挿入して退院する患者が多い中で、入院のまま抗生剤投与されている患者がおり、その理由は退院後にPICCをドラッグ使用に利用する可能性があるためということでした。彼はドラッグ使用の前科がある方でした。アメリカにおいてドラッグ使用率はやはり高いそうで、意識障害で搬送された患者にはルーチンで薬物検査をしているようでした。

 さらに、HIVの診療にも触れました。アメリカにはいくつものHIV診療専門のクリニックがあり、そこには数多くの患者が通っています。現在では多くの治療薬が開発されているとはいえ、やはり怖いという印象が強い疾患です。
血液検査の結果を知らされる際、リンパ球数やウイルス量が良好だと、飛び上がるほどに喜んでいる方もいました。私にもこれまでの経過を改めて話して下さるなど、とても優しい方ばかりでした。中には、以前のパートナーが実はゲイであり、HIVをうつされてからそれが発覚したという女性もいました。しかし治療に誠実に取り組み、今では新たなパートナーとの間に2人のお子さんももうけたとのことでした。子供達も、無事HIV感染は否定されたそうです。HIVの感染経路についての正しい知識や、的確な治療により幸せな生活を守っていくことができるという認識はアメリカでもまだ充分に浸透していないと聞きました。そのためHIV患者数の多いアメリカでさえひどい差別が存在することも、そこで知りました。1人の患者さんが、自身の受けた差別を語ってくれました。彼がHIV患者であることを知っている人に、紙皿を使うように強いられたり、彼が座った椅子に皆座りたがらなかったりというつらい経験をしたそうです。
 日本ではHIV患者が増加傾向にあり、私自身はまだ身近に感じたことはありませんが、このまま日本全体が乏しい知識のまま患者数が増えていけば、このような不要な差別をうんでしまうように思います。HIV予防と、差別をなくすためにまずは私たち医療者が正しい知識を持ち、世間にも正しい認識が広まる必要性を感じました。

 次に、1週間だけではありますが、自身の志望科である耳鼻科も見学させていただきました。
 耳鼻科は別の建物にあり、通常の外来とアレルギー外来、小規模オペのための手術室が併設されていました。
まずはじめに気になったのは、外来診療の違いです。日本では診察室に患者さんが順に入ってくる形が多いと思うのですが、ここや上記HIV外来では複数の診察室があり、そこで患者さんが待っているところに医師が入っていくというスタイルでした。さらに耳鼻科では横についているスタッフが医師の話す内容をカルテに打ち込んでいっていました。処方も同様です。そのため、診療の流れはとてもスピーディに、かつ診察自体には時間をかけて丁寧に行われていました。日本でも開業医ではこのようなスタイルの診療をみかけることがありますが、やはり実際に効率が良いと思いました。診療がスピーディに進むと、つまり患者さんと向き合って話す時間をより長く確保することができます。ただしこのシステムは、十分な人数のスタッフと部屋の数が必要となるため、どこでも採用できるものではないのだと思いました。
 手術については、甲状腺摘出術や頸部リンパ節郭清、副鼻腔手術を見学しましたが、私が見学した手術はどれも医師1人、看護師1人で行っていることに驚きました。もちろん、大きな手術になれば複数人の医師を要する場合もあるそうです。看護師の方も経験豊富なようで、手術中に小さなトラブルが起きたときには、もっとこうしたらどうか、と医師に積極的に提案しているのも印象的でした。手の数が少ないため2人とも両手や体幹を駆使し、お互いの動きをうまく察しながらとてもスピーディに手術を進めていました。

 日本とアメリカの医療には制度や施設を中心に様々な違いがありましたが、医療の本質には大きな差異は無いように思いました。ひとつ印象的だったのは、相手の目をみてじっくりと話を聞く医師が日本以上に多いことです。これには日本人のシャイな性質も関わっていると思いますが、目をみて話をし、相手の話をじっくりと聞くことでより良い患者-医師関係が築いていくことは医療技術と共にやはり重要なことであると再認識しました。
また、そもそも日本とアメリカを比較するための自分の知識の乏しさを痛感しました。これからさらに日本で医師として精進し知識と経験を深めた上で、いつかまた改めて海外でこのような経験をしたいと、強く感じました。

 おまけとして週末の観光についても触れておこうと思います。私は、ディズニーワールドとグランドキャニオン、そして世界最高の水族館といわれるジョージア水族館に行ってきました。ディズニーワールドのショーや花火、ジョージア水族館のイルカショーやその他アトラクションの、日本では味わったことが無いほどの迫力には圧倒され感動を覚えました。そしてグランドキャニオンではとても珍しいというあいにくの雨でしたが、その広大な自然を体感しました。幸運にも、晴れ間に虹を見られたことも良い思い出です。
そして病院やその他の生活、観光で現地の方々と触れ合う機会が多くあり、皆さんの寛大な心に驚きました。グランドキャニオンのツアーでは一度迷子になり、バスの集合時間に10分ほど遅刻してしまいました。他のお客さんを待たせてしまい申し訳ない気持ちでバスに乗ると、皆さんが「たどり着けてよかった!」「実は私も少し遅れてしまったから、気にしないで!」と優しく声をかけてくださり、本当にありがたく思いました。
一方で、日本に帰ってきてからの日本のサービスの素晴らしさに改めて感動したのは、いうまでもありません。今回の経験で、アメリカの寛大な心と日本の細やかな心配りの素晴らしさを肌で感じ、その良い所取りをしたような人間になりたいと思いました。

 最後に、このような大変貴重な機会を与えてくださった黒部市民病院の皆様、そしてアメリカでお世話になった先生方、アメリカ生活を共に支えてくれた仲間にお礼を申し上げます。
本当にありがとうございました。

  
     Dr.Dunn(左) Dr.Katner(中) Drs.Narsinghani& Kumar familyと(右)

  
Dr.Ponce(左) グランドキャニオンにて (中) 病院正面にて(右)

 


黒部市民病院

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