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田中建医師

平成23年11月

米国研修で感じたこと

私は2011年11月の3週間、アメリカの中央ジョージア医療センターで研修をさせて頂きました。日本にはない家庭医学という分野に関心があり、家庭医学科を選択しました。最初の1週間はファミリーヘルスセンター、2週目は救急外来、3週目は家庭医学科の病棟を見学しました。 

アメリカ大陸初上陸は、数分おきに2機の飛行機が同時並行に離着陸する世界最大規模のアトランタ国際空港でした。そのアトランタから最大6車線ある高速道路を通って1時間、アメリカの大きさに感激しているうちに自然豊かなメーコン市に到着しました。

ファミリーヘルスセンターは医療センターとは全く離れた所にある家庭医学科の総合診療所です。30室ほどの個室の診察室があり、そのそれぞれに患者が待っていて医師が診 察しにいく形式です。診察室は日本のものとは異なり、ベッドにもなるリクライニング式のいすが中央にあって、医師用のいすと端末は部屋の隅にあり壁には耳 鏡と眼底鏡が備え付けられています。最も驚いたのは一人の患者さんにかける時間の長さです。予約は多くても1時間に2人までで、診察にじっくりと時間をかけることができます。家庭医は内科から整形外科、産婦人科まであらゆる分野を一人で診て、必要に応じて専門医に紹介します。

日本の医療現場との興味深い相違点がいくつかみられました。高血圧患者は日本では血圧計を買ってきて自宅で毎日測定するよう言われますが、ここではドラッグストアに行って、置いてある無料の血圧計で週に1回は測定し記録するようにと勧められていました。 また日本にある「高血圧手帳」のようなものは なく市販のノートを使っていました。処方せんの薬品名はジェネリック医薬品に対応するため多くが商品名でなく一般名で書かれています。処方せんは不正防止 のため直接院外薬局へデータ送信されます。
家庭医学というどこかやさしいイメージとは裏腹に複雑な患者さんも少なからず見受けられました。神経性食思不振症をもったインスリンポンプ療法をしている1型糖尿病の若い女性患者には、心理面も含め1時間以上診察に時間をかけていました。男性機能改善目的でテストステロン塗布剤が何人かの中高年男性に処方されていましたが、筋肉増強目的で乱用されるおそれがあり厳重な管理が 求められるそうです。日本では認可されていないアセトアミノフェン・ハイドロコドン合剤を慢性の腰痛などに処方されているケースが多く、依存性への懸念も あり医師は理学療法や体操といった薬物療法以外の対処法を必死に患者へ教えていました。
整形外科ガブリエル先生、内科アッシュ先生の外来見学もさせていただきました。内科外来ではWorried-wellと呼ばれる客観的には健康だが自分の体調をあれこれ心配してしまう患者さんもいて日本と一緒だと思いました。

救急外来は50室ほどの個室があって、ここでも同様にそれぞれの部屋に患者が待っている形式です。救急医は2、3人常駐していて6~12時間完全交代勤務です。ここで最も驚いたのは看護師、技師等のスタッフの豊富さです。フィジカルアシスタント、ナースプラクティショナーは日本にはな い職種で医師に代わり軽症患者の診療を行います。患者さんは軽症も多いうえナーシングホームから紹介の肺炎患者もよく見られ、意外と日本の救急外来と同じ ような感じでした。ちょうど内科レジデントが研修しており我々と同じように診察、検査をオーダーし随時救急指導医に報告していました。ただ検査について は、ある程度鑑別診断を絞ってからというよりはかなり網羅的に行われている印象でした。
いかにもアメリカらしいと思ったのは警察官が常に巡回していたことでした。またHIV感染者は日常的にみられました。体重300kg以上のため40歳台にして寝たきり状態の腹痛患者もいました。輸液はすべて500mlまたは1Lの生理食塩水で行われていて日本で頻用される1号液や乳酸リンゲル液といった多様な輸液製剤は見掛けませんでした。

家庭医学では2名の上級医と10名弱のレジデントが20名ほどの入院患者を診ていました。救急外来からの入院患者で科がはっきりと決まらないものは家庭医学で入院となるそうです。ここでも典型的な肺炎から、交通外傷による肝破裂によりヘモグロビンが5台まで低下した鎌状赤血球症の少年に至るまでさまざまな患者が入院していました。
レジデントは朝7時半に集合しカンファレンスを行い、病棟回診し再びカンファレンスを行ってここまででだいたい11時半でしょうか。その後は病棟の急変や救急外来からの新入院などの連絡を待ちます。症例プレゼンテーションは日本では年齢、性別、主訴、現病歴の順番に行いますが、こちらでは性別の後に、CaucasianやAfrican Americanのように人種が入るのが特徴的でした。スナック菓子と炭酸飲料がとある病棟の廊下に段ボールのまま置かれていました。スタッフに聞くと驚くべきことに患者が間食したい時に自由に取って食べられるように置いてあるとのことでした。

メーコン市は日本の地方にある20万 人程度の中都市といった雰囲気です。市街地は極限まで拡散していて、中心部には歴史的な住居、教会がいくつかある程度で繁華街のような場所はありません。 中心部の南方には雰囲気の悪い地域があり、そのさらに外縁に大型ショッピングセンターや新しくきれいな住宅街があります。市内の公共交通機関はいつ来ると も分からない路線バスしかなく、自家用車がなければ生活は困難です。運転できなくなった高齢者は施設に住むか大都市へ移住するそうです。さすがはアメリ カ、市内には巨大ショッピングセンターが複数あります。ちょうど年間売り上げの過半数を占めるという年末商戦の開始を告げる、ブラックフライデーの時期に 当たりその熱気を味わうことができました。

食事は外食がほとんどでした。メーコン市内にはファストフード店やレストランが数多くあり選択肢は豊富にありました。値段は日本と同じ くらいですが一人前あたりの量がとても多いです。これは現地の人々にとっても多いらしく、余った料理をコンテナ(折詰)に入れて持ち帰るのが一般的なよう です。日本料理店は期待せずに行きましたが意外とおいしくて驚きました。一方で某日本メーカーのカップ麺はコンビニに置いてあるほど身近でしたが、完全に 現地向けにアレンジしてあってうま味に欠け美味とは言いがたいものでした。スーパーでは肉や飲料菓子、冷凍食品などあらゆる食料品が日本より安価で豊富に 入手できます。私も塩味の効いたピーナツバター入りのチョコレートにハマりました。強い甘味や脂肪分は人間に多幸感をもたらします。アメリカで肥満が深刻 なのは本人の責任だけではなくこういった環境の影響も大きいと思いました。しかしさすがはアメリカ、この問題を黙って見過ごしているわけではありません。 炭酸飲料や調味料類は、砂糖ゼロや低脂肪のものが必ず普通のものと並べて販売されていました。ファストフードで売れるのもコーラゼロです。人工甘味料売り 場も一大勢力を誇っていて、スクラロース、アスパルテーム等、何種類もの物質が売られていました。個人の好みや用途によって使い分けるのでしょうか。

こちらの気候はとても乾燥していて、朝晩の気温差も日ごとの気温差も大きく初夏と真冬が目まぐるしく交互にやってくるといった感じで す。用心しないと容易に風邪を引いてしまうでしょう。そのためなのかインフルエンザワクチンはドラッグストアや空港でも処方箋なしで気軽に接種可能となっ ています。

最後になりましたが今回米国研修という貴重な経験の機会を与えて下さった中央ジョージア医療センター、黒部市民病院をはじめ、すべての関係者の皆様に深く御礼申し上げます。

 
コーラが出てくる夢の蛇口(左)、これぞアメリカ(右)
 
デラクルーズ先生ご夫妻と(左)、バートナー先生と(右)
 
救急外来前(左)、朝のカンファレンス(右)

黒部市民病院

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